説明
原材料の形状や性質を変えて各種の機器、装置に使用される部品とし、これらを組み立てて人間に有用な製品となるまで付加価値を高める製造技術は、天然資源に乏しい日本にとって国の財政基盤を支える必須の技術である。製品が要求された機能を高性能に発揮して競合製品に勝つには、部品の加工精度、加工能率が高められなければならない。わが国の製造技術は、このような背景のもとで逞しく発展し、世界を先導するに至っている。
生産活動の範囲は、狭義に捉えても設計、加工、組立て、そして検査を含んでいるが、本書で対象とするのはその中の加工である。素材の性質を変える熱処理なども広義には加工と呼ぶこともできるが、本書では素材の寸法と形状を変えて新たな状態を素材に記憶させるプロセスを対象とする。加えて、寸法と形状を変えるプロセスとして、目標形状に到達するまで不要な部分を除去するプロセス、すなわち除去加工(material removal process)を対象とする。このほかにも、素材を溶融させて新たな形状を得る方法(鋳造加工)、粉体にして焼結する方法(粉末冶金加工)、そして材料の塑性変形現象を利用する方法(塑性加工)などがある。これらの中で、切削加工(cutting)と研削加工(grinding)に代表される除去加工は、各種材料への適応性と達成しうる形状の多様性、そして広範囲な加工精度と能率を達成しうることから、工業製品を生産するうえで最も重要な加工プロセスとなっている。除去加工は、そのプロセスを実行するに当たって利用するエネルギー形態によって種々のものがあるが、本書で対象とする切削、そして研削加工は機械的エネルギーを利用するものであり、機械加工プロセス(machining)と呼ばれている。
切削加工および研削加工は、工具を加工物に干渉させて相対運動を与え、不要部分を除去して要求される寸法と形状を創成するプロセスで、これを実行する機械が工作機械(machine tool)である。したがって、加工プロセスの能率と加工される部品の精度は、使用する工作機械の性能によって左右される。加えて重要なことは、加工プロセスから発生する力と熱は、工作機械に影響を及ぼし、さらにはその影響がプロセスに帰還するということである。加工のプロセスに焦点を絞っても、工具、加工物、加工液、そして切りくずの間の相互作用がプロセスの良否を左右する。さらに、工作機械が設置されている環境や工作機械を操作する作業者と工作機械との相互作用も加工結果に影響を及ぼす。加工プロセスとそれを実行する工作機械から構成される系を作業環境をも含めて機械加工システムと呼ぶことにするなら、それは入力である材料、エネルギー、そして情報を活用し、素材の付加価値を高めて製品として出力する変換システムとみなすことができる。機械加工システムの性能は、上述したように多くの構成要素間の相互作用によって左右される。したがって、機械加工システムの性能を高めるには、構成要素個々の特性と、それらの相互作用を理解し、把握しておくことが必須である。
本書は、機械加工システムの性能向上を達成するうえで必要となる重要事項を各種構成要素間の相互作用に注目するという視点からまとめたものである。その基盤となっているのは、これまで多くの研究者、技術者の努力によって得られた貴重な知見である。機械加工に必要となる高度な「技能(skill)」は、そのままでは個人個人が所有する財産であるが、得られた知見をもとにこれら技能に科学的解釈を与えて「技術(technology)」とすることにより、多くの技能が人類の共有財産となってきたのである。
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