説明
上巻刊行から13年、「植物医科学」の全編完結版が全頁フルカラーで刊行される。230点余りの図表、約500枚の病徴写真を駆使した教科書である。
12の章からなり、前半は植物医科学の「知の構造化」編、後半は植物医科学の「知の社会実装」編で構成されている。旧上巻の内容は最新のものに改訂し前半部分に配置し、当初下巻として構想されていた後半部分では、植物医科学の「知」のマネジメントにより環境・生態系に優しい植物生産をいかに効率的に行うかを論じている。とくに植物医師とその活動拠点となる植物病院の展開について、先進事例や海外での取り組み等を交え幅広く論じている。
特筆すべきは食の安全と環境保全に対してそれらが果たすべき役割が明確に述べられる一方で、その活動を持続し成長させるための植物医科ビジネスの可能性がさまざまな視点やアイデアとともに提示されている点である。同時に、学問とビジネスの融合において重要な要件となる法令・政策についても、多くのページを割いて農業環境の改善や生物多様性、脱炭素社会に向けた法令・政策と植物医科学の関係が分析されている。これらは類書にない特徴である。植物病診断の達人になるためのヒントも満載で、写真入りの詳説は初学者にもわかりやすい。植物医師をめざす者、現役の植物医師、農業関連法人や農業生産に携わる者にとって、上巻同様バイブルでありつづけるであろう。
「植物医科学」は農学のみならず、あらゆる学問分野に横串を刺し、植物を「診る」という視点から生命に寄り添う境界融合臨床科学である。
「植物病」は微生物病・害虫病・生理病・雑草害などの総称で、微生物病・害虫病・雑草害だけで、生産可能量の1/3(約200兆円相当)の食糧を毎年失っており、微生物病による損失だけで飢餓人口8億人分の食料に相当する。この現実に対して、私たちはどう切りこんでいけばいいのか。本書は、植物・微生物・昆虫の相互作用を分析するミクロな視点から、それらの織りなす自然現象を俯瞰的に眺める視点、さらには人間・社会・ビジネスの視点、そして地球環境のマクロな視点にいたるまで、多層なレンズで難題に焦点を当て解決の糸口を提示する。
植物・微生物・昆虫に興味のある人、一歩引いて自然現象を眺めたい人、現場に役立つ知と技を身につけたい人、新たなビジネス創出に興味ある人にとって、価値ある知と技が得られる。また、植物病について統合的に記述しており、植物保護に対する俯瞰的な視点を養うことができる、これまでにない研修教材としての活用も期待される。
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