説明
巻頭記事「生体適合材料で創る発熱ナノ粒子」
生体適合材料で作られた多孔質ナノ粒子は、次世代のドラッグデリバリーシステムキャリアとして非常に魅力的なナノ素子である。
これに発熱機能を付与できれば、生体内で化学的な反応場を作ることができるとともに、新たな治療法が生まれる可能性も出てくる。低侵襲治療が主流となっている現代医療において、副作用の少ないがん治療法として、磁性ナノ粒子を用いた温熱療法の研究開発がおこなわれている。
これは、がん細胞表層に発現する抗原に磁性ナノ粒子を提供し、それを発熱させて悪性細胞のみを死滅させる治療法である。しかし、現状の技術は人体の外部から交流磁場を与えてナノ子を昇温させるため、正常な細胞の温度も高くなることが課題であり、がん細胞のみを選択的に温熱治癒することが難しい。温度調整自在かつ発熱トリガ付与が容易な発熱ナノ粒子が実現すれば、非侵襲で副作用の少ない次世代のがん治療技術に貢献できる可能性がある。
Al/Ni、Ti/Si、Al/Tiなどの自己伝播発熱金属多層膜は、局所的な熱源として使用できる新しい機能性材料として大きな注目を集めている。中でも、Ti/Si多層膜は、電気刺激や機械的刺激でも発熱反応を誘起でき、ユニークな熱源となり得る。
著者らは、これまで軽金属と遷移元素をナノの厚みで積層堆積させた金属多層膜が微小外部刺激を受けて自己伝播発熱現象を示すことを利用し、シリコンウェハを0.1秒未満に瞬間ハンダ接合する技術等を開発してきた。この自己伝播発熱特性を小さな粒子に適用できれば、その応用はさまざまな産業にますます拡大するであろう。
発熱反応機能をもつ小さな粒子を作るには、粒子一粒の中に軽金属と遷移金属のナノサイズでの繰り返し構造を作る必要がある。これを実現するアイディアは複数あるが、例えば、多孔質金属微粒子の空孔に異種金属を堆積できれば、自己伝播発熱機能をもつ微粒子が実現する可能性がある。このアイディアは、つまり、2つの金属の繰り返し構造を1粒の微粒子内に設けることとなり、多層膜と同じメカニズムでの発熱機能を実現できる可能性を含んでいる。著者らがこれまで研究開発してきたTi/SiOx発熱微粒子の作製と発熱性能評価結果の一例を記述する。
自己伝播発熱機能をもつTi/Si多層膜のコンセプトに基づき、ナノサイズの金属微粒子に自己伝播発熱機能を付与する技術を紹介する。具体的には、霧化加熱法で多孔質SiOxナノ粒子をさまざまな粒子サイズや空隙率・空隙径で作製し、還元した多孔質SiOxナノ粒子にTiをスパッタ堆積させることで、Ti/SiOxナノ粒子を完成させる。
さまざまな空隙率のSiOxナノ粒子をもとに作製したTi/SiOxナノ粒子を準備し、その発熱性能を調査して、空隙率が発熱性能に及ぼす影響を述べる。
愛知工業大学 工学部 機械学科
進藤美知子・生津資大
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