説明
果樹園芸学を初めて学ぶ人や果樹に興味をもち始めた人が、より果樹への興味を高めるような本があれば、というのが稿を起こした動機である。当初、それが何であるか考えあぐねた。果樹の生理・生態、栽培技術に関する書籍は多くあり、それらの知識自体は極めて重要である。しかし、それらだけでは著者が求める本として何か欠けるように思うのである。
ある果樹が現在の形に至るまでには、誕生から各地に伝来し、その地方の自然環境に適応して様を変え、人と文化に影響を与えながら、また逆に人に変えられながら、延々たる歴史を歩んできている。食卓にあがっている何気ない果物も、多くの歴史を背負っているのである。となると、果樹のこれらの歴史と果樹の生理・生態、栽培技術とを融和させた本ができれば、より多くの人に果樹への興昧をもって頂けると思う。
このような趣旨に基づき、本書の構成は以下のようにした。最初に、年間の果樹栽培の作業に沿って必須の知識と技術を記述した。年間の作業に沿って記述したのは、個々の知識・技術を連続したものとして理解して欲しかったからである。次に果樹の種類ごとに、その果樹の「原生地と伝搬」、その果樹に特有なあるいは重要な「生理・生態等」を記述した。以上で果樹園芸学の知識は一通り記述したことになる。最後に「こぼれ話」と称して記載した逸話や民話等は、果樹と人間との関わりを理解して頂くためのものである。
わが国が世界との関わりの中で大きな転換期を迎えたのは、明治時代以降であろう。果樹栽培の急速な発展も明治時代以降と考えてよく、明治時代以降の果樹発達史は著者が力を入れた部分であるが、紙面の関係で表として入れさせて頂いた。全体として果樹園芸学の入門書としての知識・技術は十分に記したつもりであるし、また一般の人には「原生地と伝搬」「こぼれ話」の項を読んで頂ければ、果樹の面白さが分かって頂けるものと期待している。本書を目にされ、さらに果樹園芸学や果樹産業に興昧を抱いて下されば幸いである。
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