説明
農業生産にとって水は欠かすことのできないものである。水を確保するために人々は努力を重ねてきた。しかし、環境保全の視点から水を有効利用せねばならないことは21世紀に入る今、さらに切実なものとなってきている。しかしながら、作物に水が必要であることは分かっていたとしても、どれほどの水が必要であるのかを明確に理解をした上で、水の節約をするとしても節約の基準となるものがなければ水の有効利用を行うことができない。
本書では、作物の水分状態とはどのようなものであるかをテーマに、水の物理化学的な性質を基にして定義されている水ポテンシャルの概念を基礎から説明し、植物にとっての水ポテンシャルの概念の大切さについて理解を深めていただくことを第一目標として書かれている。また、水ポテンシャルの概念のみでなく、水ポテンシャルの計測法について原理を含めて計測事例を示しながら解説している。一方、実際の圃場レベルにおける土の水ポテンシャル計測の重要性についても述べている。
これまでの水分生理学の研究者は物理化学を軸にして研究を進めてきた人々が多かった。しかし、時代の流れに乗って分子生物学が盛んとなり、物理化学および物理を勉強する学生が植物生理を勉強しなくなったため、水分生理学でも物理化学を基にして、基礎的な研究を行う水分生理学者の数が減少し始めている。水ストレス・塩ストレスの研究では、分子生物学的な研究が急速に伸びているが、環境の水分状態を計測するための水分計測の価値は、減少してしまったわけではなく、圃場、植物個体、植物組織、植物細胞レベルでの正確な水ポテンシャル計測はこれから益々重要になってくることと思われる。本書は水分生理の基礎的な参考書として、学生のみでなく、水分生理に興味を持つ研究者のためにも参考になる専門書である。
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