説明
生命の誕生は、卵子と精子という生殖細胞の合体に起源があることはいうまでもないが、生殖生物学の永い歴史からみると、卵子より精子に関する研究が主流であった。すなわち、1950年代初頭に、M. C. ChangとC. R. Austinが、ほぼ期を同じくして、精子のcapacitation学説を確立して以来、受精現象における生殖細胞の役割は精子におかれてきた。そして、精子に関するin vitroでの研究成果は、生物学とか畜産学の領域で精子学として確立されてきた。
これに反して、卵子の研究は、卵子そのものの形態と機能に関するものというよりは、排卵現象を中心とした生殖内分泌学のなかでの卵子の動態が注目され、卵胞発育に伴う卵子の成熟過程についての研究が主であった。しかし、1960年代に入り、M. C. Changらを中心としたin vitroでの受精現象に関する研究の台頭は、今日の生殖補助技術(ART)の源流となり、さらに、それは1978年のR. EdwardsとP. Steptoeによる体外受精児の誕生につながり、ここ20年は、精子よりは卵子への関心が高まっており、生殖生物学は卵子の時代に入っている。
今日、 ARTは生殖医療の主役となり、わが国だけでも、400施設を越えるARTクリニックが開設されており、5万人を越える体外受精児が誕生し、卵子細胞質内精子注入法(ICSI)を中心とした新しい技術の応用によって、妊娠率の向上が意図されてきている。しかし、一方では、卵子に関する多くの疑問点は未だ解決されておらず、それを学ぶモノグラフすらないのが現状であった。
この度、生殖工学のための講座のトップバッターとして、『卵子研究法』が企画され、この領域を文字どおりリードしてきた農学・畜産学のエキスパートに加えて、生殖医療にたずさわる新進の研究者の執筆を得て、本書が完成したことは、まさに画期的なことである。具体的には、100名近い専門家の寄稿を得て、卵子研究法の歴史、卵子の基礎、卵子の体外培養法、卵子の解析法、卵子の応用について、対象としては実験動物、大動物、サル、ヒトを含む全ての哺乳類の卵子を網羅したものであり、日常の研究と臨床に役立つことを目的として企画されたもので、まさに、updateな卵子学の集大成といえる。
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