説明
巻頭記事「ねじ締結体のゆるみ問題への有限要素法の適用」
筆者は2004年より、ねじ締結体のゆるみの問題へ有限要素法を適用する研究活動をおこなっており、いままでさまざまな課題を産学連携で取り組んできた。いうまでもなく、ねじ締結体は、機械の分野に限らず、非常に広く用いられており、日本ねじ工業協会によると、日本のねじは 1 000を超える事業所数で、年間 1 兆円近い生産実績、3 000億円におよぶ輸出量を誇る。筆者の研究室へのねじに関する技術相談の数は、ほかの研究テーマと比較して、圧倒的に多く、これまでの15年で100件近くにおよぶ。共同研究や技術移転も30件を超えている。
本稿では、筆者のこれまでの経験を元に、ねじ締結体の有限要素解析が解決してきたさまざまな問題について紹介したい。なお、ねじのゆるみなどの対策については、すでに数々の名著や、VDI2230 などのガイドラインも存在する。有限要素法は、その知見をさらに深めるとともに、現場に即した定量的な評価を提供できることから極めて有効な手法である。
ねじのゆるみは、大きくわけて戻り回転なしの非回転ゆるみと、戻り回転ありの回転ゆるみにわけられる。前者は、陥没、微動摩耗、塗装材の破損、熱的原因によるゆるみで、後者は、軸周り方向、軸直角方向、軸方向の繰り返し外力によるゆるみが挙げられる。また、これに加え、締結時の軸力の管理、ゆるみ止め部品の効果の検証も大きな課題である。
本稿では、まず、軸直角方向外力により回転ゆるみの有限要素法を使ったメカニズムの解明と、それより得られたゆるみ防止指針の提案について述べる。つぎに、ダブルナットやばね座金などのゆるみ止め部品の効果の有限要素解析を使った検証例について述べる。
なお、軸周り外力と軸方向外力のゆるみについても有限要素解析をおこなっているが、前者は従来の理論通りの結果が得られており、後者は確かに生じるが、過大な外力が必要なため、疲労などのほかの破損モードが先に起こると考えられるため、ここでの紹介は割愛する。
東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授
泉 聡志
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