リスクと共存する社会

1,760 (税込)

本書ではリスクはなぜ生じるのか.様々な事例から共通の原因を検証し,そしてリスクといかに共存するか,あるいはリスクをいかに低減できるかを食の安全性の視点から検証するものである.

在庫あり

判型 A5判
第1版
ページ数 109
発行日 2017/05/15
ISBN-13 978-4-8425-0558-9 C3061
ISBN-10 4-8425-0558-3
JAN 1923061016003
Yahoo!ショッピング でのお取り扱いについてはお問い合わせください。
Amazon紀伊國屋書店セブンネットショッピング
図書館: カーリル
※当サイトの書影データはご自由にお使いください。
書影のダウンロード: メイン画像, サブ画像[1]

目次

Ⅰ.リスクの定義

Ⅱ.身近にある様々なリスク
 Ⅱ-1.食のリスク
 Ⅱ-2.環境のリスク
 Ⅱ-3.医療のリスク

Ⅲ.リスクはどこから生まれたか
 Ⅲ-1.リスクを持った食品がなぜ出回るのか
 Ⅲ-2.環境汚染はなぜ起きたか
 Ⅲ-3.倫理観の欠如

Ⅳ.リスクにどう対応するか
 Ⅳ-1.食の安全
 Ⅳ-2.環境汚染

終わりに

説明

人類はこの世に生まれ,やがて狩猟生活を迎えることになるが,時には生きていくため,あるいは食べるためには自分よりも大きな獲物を射止めなくてはならなかった(参考1).そこには当然のことながら大きな危険(リスク)が伴ったことは想像に難くない.

また,現代では刃物を持った男が突然襲ってきたとか,自動車を運転していていきなり追突されたなどのニュースが新聞に度々掲載されている.これらの危険は予測できないリスクと表現しよう. 一方,安全性の視点からあらかじめ予測できたリスクがある(HACCPの概念).また,便利性,経済性,安全性を高める視点から行った行為が新たなリスクを生むというリスク(例えば食品添加物)がある. リスクの内容は人を死に至らしめるものから地球レベルで汚染を撒き散らすものや転んで怪我をするものまで様々である.しかしながら,ここではリスクの大小ではなく,上記したようなリスクがなぜ生じたかを考えたい.

リスクの生じる原因はリスクの中味や大小に係わらずすべてのリスクに共通するものがあると考えるからである.

つい最近の原子力発電所が津波で破壊された事故で,我々は予想をはるかに超えたリスクを負うことになった.それに伴って,原子力発電所をすべて廃棄すべきだという意見が大きくなっている.安全性が何より優先されなければならないが,長期的視点に立てば様々なエネルギー政策がある中,原子力発電もその一部を担っていることは間違いない.

時代を遡ろう.蒸気機関車が作られ,ダイナマイトが発明された.それによって多くの便利性や経済効果が生まれたが,幾多の事故により多くの犠牲者を出したことも事実である.それを乗り越えて今の交通網がある.一方で,戦争の兵器として使われることにもなった.

技術的安全性を考える時に経済性が優先されてしまい,その結果,原発事故のように科学的客観性が信頼されなくなってしまったことは憂慮すべきことではあるが,リスクのより一層の低減方法を考えるべきであろう.なにしろ狩猟時代からすでに我々の社会はリスクと共存する社会なのだから.

ちなみに,畑村氏の失敗学によれば,いかなる分野でも十分な失敗経験をつむ(十分安全な製品になるには)には200年かかるといわれている.原子力発電は始まってまだ60年しか経っていない.

1904年,ピエール=キュリーはノーベル賞受賞講演で,「ラジウムが犯罪人の手にわたると,非常に危険なものになるでしょう.……ノーベルの発見はこの良い例であります.強力な爆弾によって私たちは驚くべき事業をしてきました.また,これは人々を戦争に駆り立てる大犯罪人の手に渡ると,恐ろしい破壊の手段にもなります.私はノーベルと共に人類は新しい発見から害毒以上に多くの福利を導きだすであろうと信ずる一人であります」と述べている(渋谷一夫,河村 豊,小林武信,徳元琴代,北林雅洋:科学史概論,ムイスリ出版,2000).

たとえば,DNAは1869年にスイス人Miescher(石川 純,DNAから遺伝子へ,東京化学同人,1993)によって,兵士の傷口にまいた包帯に付いた膿から発見されたが,DNAが純粋に取り出されたのは20数年後であった.一つの理由に,冷凍遠心分離機や電子顕微鏡がいまだ発明されていなかったことを挙げることが出来よう.DNAを高度に精製する,あるいはウランを濃縮するには遠心分離機が必要である.また,現在がん治療法の一つに放射線治療が発展しつつある.ホウ素中性子補足療法ではガン細胞に補足させたホウ素に中性子を当てることにより放射線を発生させ,これがガン細胞を破壊する.原子炉では生じた中性子が核物質に衝突し,α,β,γ線を発生すると同時に核分裂エネルギーを発生する.すなわち,科学の発展には様々な領域の学問が並行して進展することが欠かせない.究極,リスクをいかに低減させるかを考えることが最優先されるべきであろう.

本書ではリスクはなぜ生じるのか.様々な事例から共通の原因を検証し,そしてリスクといかに共存するか,あるいはリスクをいかに低減できるかを食の安全性の視点から検証するものである.
第Ⅰ部「リスクの定義」では,リスク発生の要因からリスクを4つに分類し,それぞれについて概説する.
第Ⅱ部「身近にある様々なリスク」では,現実に生じた様々な問題を提示し,リスクがいかに広範囲に存在するかを明らかにする.
第Ⅲ部「リスクはどこから生まれたか」では,リスクがなぜ発生するかを食品の安全性や環境汚染を通して考察する.
第Ⅳ部「リスクにどう対応するか」では,国民一人一人の真の自由と責任,世界共通の倫理観・価値観を通してリスクを低減できることを明らかにする.
本書が技術者倫理を学ぶ学生さんや食の安全・安心に興味のある読者の皆さんにお役に立てれば幸いである.

レビュー

レビューはまだありません。

“リスクと共存する社会” の口コミを投稿します

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です