説明
1961年(昭和36年)に作物の病害鑑定の一助になればと、農林省 園芸試験場(現:農研機構 野菜花き研究部門)の北島博氏と本書の編著を行った農林省農業技術研究所(現:農業環境技術研究所)の梶原敏宏氏の共著で「原色作物病害図説」が出版された。カラー写真を用い類似病害との区別に重点を置いて作られたため、普及現場関係者などにかなり広く利用され、新しい病害などを追加して第3版(1967年)に達した。その後1980年頃増補改訂の話が出て、追加項目の選定などの作業を進めていたが、諸般の事情により沙汰止みになっていた。
初版から50年以上経過したところで再び増補改訂の話が持ち上がった。栽培作目や発生する病害数も増え、各病害とくにウイルスによる病害の情報も飛躍的に増加していることなどから、前作のように各作物を一括して本にするのはボリュームが大きくなりすぎることから、梶原氏が現役時代の専門であった普通作物に絞り「普通作物病害図説」の刊行となった。本書の大半は梶原氏の執筆によるものだが、氏ひとりでカバーできない部分については、例えばイネのウイルス病については農業環境技術研究所の日比野啓行氏に、また,マメ類の病害を含めて酪農学園大学大学院特任教授の児玉不二雄氏他それぞれ専門の数名の方々に協力・執筆をお願いし、さらに一部の方からは貴重な写真を貸与して頂き完成に至った。梶原氏以外の執筆、写真提供の際は文末または写真キャプションに名前を記載している。
本書で取り扱う普通作物は、?イネ、?オオムギ・コムギ、?エンバク、?アワ、?モロコシ(ソルガム)、?トウモロコシ、?ダイズ、?インゲンマメ、?ササゲ、?アズキ、?エンドウ、?ソラマメ、?ラッカセイ、?ジャガイモ、?サツマイモといった穀類や豆類を中心とした15作物である。本文はこれら15作物を15章とし、同じ名前の病害でも作物ごとに書き分けることにした。ページの構成はタイトルに和名・英語名・学名が記され、本文中の見出しは「病徴」(病気の特徴)、「病原」、「生態」、「防除」の4項目について主に記述されている。必要に応じて備考欄を設け、内容の充実を図っている。写真はカラー(一部顕微鏡写真などはモノクロ)で紹介しているので、病害鑑定の際に重宝するであろう。巻末には病原名・英病名の索引があり、目次の作物名・和病名と合わせて縦横に検索することができるようになっている。
大学や試験研究機関をはじめとする植物病害虫に関わる研究者だけでなく、普及員や農業で生計を立てる現場の方にも役立つ1冊に仕上がっている。迅速な鑑定や的確な防除法は被害を最小限に防ぎ、きっと生産性の向上に寄与することであろう。
植物防疫に関係する多くの人達は、病害を診断するための的確な情報を熱望している。本書はその要望に応えるべく編纂されているが、改訂を進めている間にも農業を取り巻く環境条件は日々変化し、発生する病害も増加すると同時に、これらの病害についての研究内容も大きく変化し続けている。IT関連の発達により本書執筆の際にも情報の蒐集は容易になった反面、どこまでを最新情報に書き換えるかで苦心することにもなった。学名やシノニムなども校正の段階で、できる限り最新のものを採用したが、本書を手にした際には、すでに変革し、情報に欠けている点もあると思われるがお許し願いたい。今後、本書を元にして若手の研究者によって、より多くの情報を有効に伝える方策を計り進めてもらうことを切に希望してやまない。
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