説明
安全(safety)・安心(security)の確保は、人々の社会生活において最も基本的なものである。社会生活を営むうえで必要不可欠な様々なハードウェア(陸海空の交通システム、各種プラントからICチップに至るまで)の安全・安心を支えるための中心となる学問が破壊力学である。形あるものは、いつかは必ず故障し、壊れる。損壊の原因は、疲労、腐食、過大荷重など様々であるが、構造システムが運用期間内に予期せぬ原因で破壊してしまうことがあってはならない。そのため、構造システムの設計者には破壊力学に基づいて様々な使用環境を想定した耐久設計を行うことが求められる。
一般に、破壊力学の重要性は認識されるものの、破壊力学および構造健全性の様々な分野に関わる初心者、中堅技術者から経営者に至る多くの人達が「樹を見て森を見ず」のたとえではなく、「樹も森も同時に見える」ように解説した書物は見当たらないのが現状である。そのため、本書では破壊力学がカバーするほとんどすべての分野について深くまたわかりやすく解説し、広範な読者の満足が得られるように心掛けて編集した。
第1章では、き裂問題を中心とした破壊力学の原理と基礎理論について述べる。
第2章では、第1章の理論解析によって得られるき裂の特異場を表わすパラメータであるK値あるいはJ値に基づく破壊靭性値、CTOD、塑性域寸法の限界値など材料強度の立場から見た破壊強度特性値、およびそれらの実験的求め方、材料特性値としての破壊靭性に及ぼす諸因子の影響について論ずる。
第3章では、疲労問題を取り扱う。低サイクル疲労、高サイクル疲労、疲労設計線図、累積疲労損傷則、ランダム疲労および疲労強度に及ぼす平均応力の効果について解説する。また、疲労き裂の問題に関して、進展のメカニズム、進展速度に及ぼす残留応力や過大荷重などの力学的因子、および腐食、応力腐食割れなどの環境因子の効果、き裂開閉口挙動の概念についても紹介し、さらに解析の応用例として破壊力学の手法に基づく寿命評価事例について詳述する。
さらに、いくつかの代表的な耐疲労損傷設計の概念、および損傷許容設計概念に基づいた構造健全性確保のための具体的事例について紹介する。
第4章では、破壊原因調査に必要なフラクトグラフィについて、破面の形成メカニズム、巨視的および微視的な破面の見方について解説する。
第5章では、構造の健全性を評価するために不可欠な各種の非破壊検査技術について、それらの特徴および検査結果に影響を及ぼす検査員の要因などについて論ずる。
第6章では、構造・材料に起因した破壊事故を防止する目的で、国内外で発生した主要な事故の事例を原因別に分類し、事故原因、事故の教訓、再発防止のための対策について個別的また総括的な観点から解説する。
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