説明
数年前、某工作機械メーカのトラブルシューティングで「原因は、ひずみゲージで研削抵抗を計れば簡単に究明できるよ」と技術指導したとき、「ひずみゲージでは、一度も研削抵抗を測定したことがない」との返事であった。
そこで、研削抵抗のひずみゲージ計測法を解説している専門書を持ち帰らせ、具体的に測定することになった。
1カ月後、「ノイズのため良好なデータが取れないので、一度来訪して欲しい」と依頼され伺ってみると、驚くことに、センタへ貼り付けられたひずみゲージはコーティング剤で被覆されていないし、リード線は空中にぶら下がっていて、さらにそれに研削液が直撃していた。
この実例から、研削加工で最も基本的なひずみゲージによる研削抵抗の測定法でさえ、適切に実施するには、計測法の原理だけでは説明できない「ノウハウ」が存在しているのがわかる。
また最近、研削加工分野を研究開発している当研究室でも、新学期の数ヵ月間に学生が報告する測定データの質低下が著しい。例えば、熱変形のために中凹になるはずの工作物形状を、学生は「先生、大発見です。工作物形状が逆の中凸になっています」と平気で持参してくる。
原因は、表面粗さ計の触針が工作物円筒部の母線を正確に通過していないために、円筒部を中凸形状として計測するという単純な間違いであった。
しかし、この学生の失敗例には、計測技術に関する本質的な問題が潜在しているのに気がつく。すなわち、計測技術の伝授では、伝言ゲームのように重要な点が簡略化されると同時に、不必要な尾ひれが添付されて、先輩から後輩学生への世代交代とともに変質してしまうという問題が生じるのである。
前述の二つの実例から理解できるように、もっともこれは計測技術一般について言及できることであるが、特に複雑な現象が交錯する研削加工の計測技術では、初心者が学術論文や専門書に掲載されている測定法をただ単に模倣しても、的確なデータを取得することは非常に困難であり、また経験者から初心者への計測技術の伝授も容易ではない。
それは、指先で体得するような微妙なノウハウを精緻に記述した解説書が現存しないことが最大の原因だろう。
以上が、本書を執筆することになった動機である。各章では、従来の学術論文や専門書には記載されていない研削加工の計測に関する詳細な手順とその方法に的を絞って執筆している。
まず、学生と若い技術者を対象にして、基本的な研削現象量である研削抵抗、寸法生成量、研削温度、熱変形量、表面粗さ、砥石摩耗量の計測法をその勘どころとノウハウを踏まえて詳述し、初心者でも測定法が確実に習得できるように心掛けた。特に、研削実験の手順と安全対策を第12章にまとめているので、初心者は事故防止のため、最初に熟読していただきたい。
また、中堅の技術者に対しては、工作物の表面プロフィルと加工変質層、ならびに砥石表面性状の最先端計測技術を詳述し、研究開発の有効なメソッドを提供している。(序文より)
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