説明
かれこれ10年ほど前になるが、「人工生命」という耳慣れない言葉を聞いた。生命現象にはそれまでにも興味を持っていたし、言葉だけで何となくわかった気になっていたが、調べるほどに自分がいままで進めてきた研究らしきものに多少の疑問が湧いてきた。
「人工生命」という用語に対して、現在では疑問が多々あるが、見かけは新鮮であり興味を持つには十分なインパクトを伴う響きがあった。アメリカでは、人工生命はいわゆる「ComplexSystems」に関する研究の一つであったが、この名称ですら当時は初耳であった。 そのうちしばらくして、「複雑系」なる訳語を冠した本が出版され始めた。
complexと複雑という言葉が即座にはつながらなかった。西欧で確立されたニュートン力学が物理的な現象を支配するすべてなのだろうか、支配方程式というのは何を表しているのだろうか、シミュレーションとは何だろうか、理解するというのはどういうことなのだろうか等々、疑問を持ち始めると止まらない。
さらに調べを進めると、CellularAutomataという言葉に出くわした。現在、いままでに湧いてきた疑問にすべて答えられるほど理解が進んでいるわけではないが、CellularAutomataを取り巻く「科学に対する新しい方法論」に関してまとめてみようと思い、この本を書くことにした。
目次
1部基礎編
1.オートマタ(自動人形)(1.オートマタの歴史、2.人間機械論とオートマタ、3.オートマタのその後、4.オートマタを理論化する)
2.物理現象のモデル化と理解(1.モデル化の手順、2.支配方程式の解、3.現象の理解とは何か)
3.システム論的現象論(1.システム論としての現象のとらえ方、2.「ComplexSystems」の提案、3.いくつかの研究の紹介)
4.1次元セルオートマトン(1.セルオートマトンの概要、2.1次元セルオートマトン、3.セルオートマトンの四つのクラス)
5.2次元セルオートマトンとその周辺(1.ペトリネット、2.Lシステム、3.ライフゲーム、4.格子ガスオートマトン、5.マルチエージェントシステム)
2部応用編
6.拡散現象のモデル化(1.拡散方程式、2.2次元流れ場のシミュレーション、3.日本海重油流出拡散解析、4.3次元拡散現象のモデル化、5.セルオートマトンは速いだけか)
7.波動現象のモデル化(1.音場の支配方程式、2.音場のモデル化)
8.粒状体の流れをモデル化する(1.概要、2.離散要素法によるシミュレーション、3.セルオートマトンによるモデル化、4.風紋や砂丘の形成)
9.交通流のモデル化(1.従来の交通流のとらえ方、2.ペトリネットによるモデル化、3.セルオートマトンによるモデル化、4.大型店舗の駐車場シミュレータ、5.交通流シミュレータに関する補足)
10.人の流れのモデル化とその応用(1.通路を対向して進む人の流れ、2.分岐のある通路を進む人の流れ、3.店舗での購買客の動きと売上げの予測、4.建物からの避難シミュレーション、5.駅構内の旅客流動シミュレータ、6.人の流れに連動した広告の評価)
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