説明
巻頭記事「コロナ禍における技術者倫理」
2020年の冬休みが終わる頃、中国の武漢市で原因不明の肺炎流行についてのニュースが流れた。NHKの特設サイトによると、1月14日にWHOが新型ウィルスを認め、1月16日には日本国内で初の感染が確認されている。とはいうものの、まだまだ危機感はなく、筆者もその次の週にフランスに出張している。空港や街中でも特に緊張した感はなかった。しかし帰国1週間後の1月30日にはWHOが「国際的な緊急事態宣言」を宣言。2月に入り、特にダイヤモンドプリンセス号の寄港の頃から、新型コロナウィルスがニュースにならない日がなくなった。
筆者の周りでは、卒業式や、恩師の最終公演が中止となった。3月上旬にはまだ卒業旅行に行く学生もいたが、終盤になると東京五輪・パラリンピックの延期が決定、例年の追いコンも中止。キャンパスが入構禁止になり、入学式も当然中止。春学期の開始が遅れることとなるも、オンライン授業の準備があわただしく始まった。4月の上旬に緊急事態宣言が出され、これは5月末まで解除されることはなかった。幸運なことに日本においては、第1波が無事に収束し、逆に経済への悪影響が多く取りざたされることとなった。
しかし、ヨーロッパを中心に新型コロナウィルス、COVID–19は猛威を振るい、各国で厳しいロックダウンがとられたにも関わらず、イタリアでは60歳以上の患者には人工呼吸器が使われない、など医療崩壊のニュースが流れ、3月下旬からは米国で急激に感染者が増加した。日本において感染が爆発しないのは、何らかの要因、ファクターXがあるのではないか、と願望も含めて、議論されるようになった。
本原稿を執筆している2020年10月現在、日本においては第2波も落ち着き、コロナウィルスに対する感染を制御しながらいかに経済を回すか、という方針が国民のコンセンサスを得ていると思われる。一方で、この秋から私の研究室に留学予定のスペイン、イタリア、フランスの留学生とオンラインで話をすると、日本よりも状況は深刻な印象を受けた。世界全体では収束はいまだみえず、日本においてもこれから冬にかけて感染が増えるのでは、という懸念は高い。本稿では、この未曽有の状況における技術者倫理について、多分に私見を交えながら議論してみたい。
慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 教授
三木則尚
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