説明
本書は、トライボロジーの研究と技術にとって最も基本となる摩擦・摩耗試験の基礎と、それを応用した技術、さらに摩擦・摩耗試験を行うときに利用したい試験機・試験法を取り上げ、それぞれの試験によって何を知ることができ、何に活用できるかについて著したものである。
現在の発達した科学技術を駆使しても、二つの固体間の摩擦力や摩耗量の値を正確に予測することは大変難しく、必然的に摩擦・摩耗試験にたよらざるを得ない。つまり、材料の摩擦・摩耗というトライボロジー特性を探る手段として、摩擦・摩耗試験が最善の方法であると同時に、唯一の手段でもある。
科学的な視点から摩擦・摩耗試験を試みた最初の実験者は、ルネッサンスの天才レオナルド・ダ・ヴィンチであろうか。何故、彼が机上で摩擦実験をしなければならなかったか、それには彼なりの理由がある。ダ・ヴィンチが水の汲み上げポンプやクレーン、はては戦車やヘリコプターなど多種多様な機械装置の設計スケッチを書き残していることは周知の事実であるが、彼の考案した機械には摩擦運動するところがとりわけて多い。それぞれの部分を滑らかにかつ安定して動かそうと真剣に考えると、結局、摩擦・摩耗の問題に直面する。現在でも状況は同じである。機械が長期間安定して動くためには摩擦部分のコントロールが必要になる。摩擦・摩耗試験はその答えを見つける唯一の科学的手段なのである。才気あふれたダ・ヴィンチが見た机上の摩擦・摩耗現象も、500年の時を経て現代のトライボロジストが見る現象も、測定の厳密さにおいて差があるかも知れないが、まさに同じ光景といえるのではなかろうか。
ところで我々が摩擦・摩耗試験をする目的に、2面間で起きている摩擦・摩耗現象の解明とその機構を知りたいということがある。そしてもう一つの目的が、実際に機械を設計し動かすときの摩擦力と摩耗量の予測である。そのとき重要となるのは、試験機・試験法と試験条件の選び方、試験によって得られた結果の分析とデータ処理である。本書は、現在活躍するトライボロジーの研究者と技術者が、これらの問題に答えるべく最新の知恵を集めたものである。
今から3、4年前、トライボロジーの基礎である摩擦・摩耗の試験機・試験法について書物にまとめようという話が日本トライボロジー学会の出版委員会で持ち上がり、本書の草案を練り、ここに出版の運びとなった。現在のトライボロジーの分野を牽引する39名の方々にそれぞれの専門領域から執筆をお願いした。本書は単なるハンドブック的試験機集という書物ではない。摩擦・摩耗試験において必要となる多様な技術の解説と、トライボロジーの根本的な現象に根ざした摩擦・摩耗試験機と試験法を集大成した書物である。第1章ではすべり摩擦と転がり摩擦の乾燥下と潤滑下の試験法について述べ、それぞれの試験機によって、何を試験できるのか、何を知ることができるのか、対象となる目的の中で、与えねばならない試験条件について著してある。第2章では摩擦・摩耗試験が行われるさまざまな条件、すなわち真空、温度、荷重、速度、生体、通電などの特殊な環境条件下の摩擦・摩耗試験について著してある。第3章では摩擦・摩耗の測定法について述べ、測定方法にはどのようなものがあり、測定例とそこから導き出される結果のまとめ方を著してある。最後に第4章では試験に必要となる最新技術と実機との対応について書かれている。各章、各節はそれぞれ独立しているが、内容はすべてにわたってお互いに関連し合っている。著者にはそれぞれの節もしくは項にわけて執筆を願った。(序文より抜粋)
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