説明
全くの偶然ですが、この本は絶好のタイミングで刊行されることになりました。
日本のプラントは、いまや危機的な状態にあります。それを象徴するのが、製造プラントにおける事故の多発です。高圧ガス保安法に関係する事故の発生数を見ますと、1975年から1999年までは、年間100件前後で推移してきました。ところが2000年には前年に比べ35%増し、2001年には56%増し、2002年には45%増しと、突如急増を始めたのです。その大きな原因として、設備の老朽化と保全費の減少、この二つを挙げることができるでしょう。
わが国の製造業は、新しい設備をフルに使って“ものづくり王国”を築いてきたはずでありました。ところが1975年を境に、製造設備の平均年齢が日米で逆転していたのです。経済産業省のまとめた資料によりますと、アメリカの設備の平均年齢が7年台でとどまっているのに対し、日本の設備はその後確実に高齢化を続け、2003年には12.2年に達してしまった。
一方、日本プラントメンテナンス協会の調査によりますと、わが国の設備保全費の総額は、1990年代には8兆円台をキープしていました。ところが2001年には7.9兆円になり、以後減少を続けて、2003年度には7.3兆円まで落ちたのです。
1年前だったら、こういう“デスパレートな”状況でこの文章を書かなければならなかったでしょう。“いくら良いことを教えてもらっても先立つものがない。だから事故がふえるし、その処理で手一杯なんだ”、現場はそういう状況でした。危機的状況がクリアーされたわけではないのですが、うれしいことにごく最近、曙光が射したのです。
2006年に日本プラントメンテナンス協会が行った調査によりますと、2004年度におけるわが国の設備保全費総額は、8.5兆円に回復しました。対前年比で16%の増加なのです。もう一つ、2005年11月20日の日本経済新聞は、“企業設備「高齢化」止まる”というトップ記事を載せました。わが国の“設備年齢は12.04年で、昨年12月末よりわずか0.0003年分だが低下した”というのです。これは大きなターニングポイントだと思います。
しかし、単純に喜んでばかりもいられません。曙光が射したとはいっても、危機的状況からの脱却はこれからの努力にかかっています。いままでどおりの仕組みで、いままでどおりの技術を使ってメンテナンスをしていればいいという時代では、もはやないのです。設備に起因する事故・災害は、いったん起これば社会に及ぼす影響が巨大なものになり、そのような事態に対して企業の負うべき社会的責任は、ますます重くなりつつあります。メンテナンスにも、そのための新たな仕組み、新しい技術が求められているのです。
このような時期に、メンテナンス技術の一環であるトライボロジーについて、成書が刊行される意義はとても大きいと思います。この本が活用されて、わが国のメンテナンス技術が、さらには製造業が、いま一段の飛躍を遂げることを祈っています。
(発刊によせてより抜粋)
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