説明
研削加工は、いろいろな点で切削加工と研磨加工の中間的な位置づけにある。しかしそれでいて、最近、特に研削加工に対する期待が大きいのは、両翼にある二つの加工が共有し得ない優れた特質を備えているためであろう。そして何よりも、研削加工は他の二つの加工に比べて、加工変数が多い。これは、取りも直さずこの加工が未完成であるということを示しており、技術的にはノウハウに属するものが多く、発展の可能性をより多く秘めているということでもある。これが、この加工への期待度を高めているともいえるのではないだろうか。
本書は、できるだけ研削現象をモデル化することによって、体系的に理解し得るような記述を心掛けた。本書では、SEM(走査型電子顕微鏡)の写真を用いて砥石表面を立体視する手法を取り入れ、できるだけ読者と情報を共有するようにした。立体写真は、対になる2枚の写真の間に厚手の白紙を立てて左右の目でそれぞれの写真を見つめることにより、誰でも簡単に立体視できる。おっくうがらずに、ぜひ試みていただきたい。
「学問」は、文字によって、その内容を100%読者に伝えることができる。しかし「技術」の場合は、文字によって、100%伝えることは不可能である。著者は、それが「技術」の本質であると考えている。つまり、文字によって伝えられるのは、「技術」の方向性だけであって、「技術」の本質ではない。文字や言葉では伝えられない「技術」の本質は、それぞれが体得しなければならないものであり、これがいわゆるノウハウである。
われわれ研究者は、文字や言葉では伝えられない「技術」の本質を、「技能」として、より低く位置づけてきた嫌いがある。それが生産技術者に伝染し、生産技術者が「技術」の本質を見失いノウハウの蓄積を軽視したことが、わが国における生産の空洞化の一因となったのではないだろうか。
本書は、大学院程度の学生や研削加工に関する知識をさらに深めようとする技術者、研究者の教科書を念頭に置いている。したがって、基本的に、広く受け容れられていると思われる内容を主にしている。
(序文より)
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