説明
技術者にとって確率論は力学と同じように一つの独立した基礎的学問であるという考え方がある。力学計算をしなくても自動車一台を設計できる人がいることは事実だが、これは経験を通じて計算結果が身に付いているからであり、確率論を使うときも同様である。しかし確率論の多くのテキストは数学者の視点で書かれており、それは実際の機械を一度も設計した経験をもたない力学者が書いた力学書と同じである。
もともと機械の機は物事の起こるきっかけを意味し、械は戒めを意味しているから、機械はいつも決められた仕事をするように制御されたシステムであり、どんなに不規則な現象であっても、工学的にはそれを規則的なものとして問題を解決するわけである。一方、どんなに規則的な現象であっても、超精密な運動を実現するにはそこに現われる不規則な揺らぎを無視することはできないわけである。不規則な現象と見なすかどうかは工学の問題であって、確率論の問題ではない。本書は技術者の視点で書かれた確率論であるが、本書において意図した点の一つは、理系、文系を問わず初心者に解りやすく記述したことであり、教科書、参考書、専門書、実務書というよりも、ランダム現象に多少でも興味をもつ人々のための教養書である。
(序文より)
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