説明
本書のタイトルに採用した「根のデザイン」というのは、第5部第21章で紹介されている小島雅通氏(サヘルの森)・大沼洋康氏(国際耕種株式会社)・坂場光雄氏(株式会社エコプラン)のグループによる、乾燥地における植林活動のキャッチフレーズである。彼らは、厳しい乾燥条件の中で生き残っている植物の根をお手本にして、根をデザインすることによって失われた緑を少しずつ回復させ、それを基盤に現地の生活を再構築する実践活動を続けている。自然生態系に学び、これを利用しようという姿勢には学ぶべき点が多い。
「根のデザイン」という考え方には、1.根系の形態や機能を制御する技術、2.達成目標としての理想型根系、3.根系の形態や機能を評価するためのノウハウ、という3つのポイントがあると編者は考えている。根について概説したうえで、このような考え方を提示したのが第1章である。また、第2章は、長年にわたって理想型根系という考え方を主張してきた山内章氏の解説である。これら2つの章からなる第1部では、本書の核となる概念を提示しながら、1.のポイントである理想型根系について考察した。第2部では3.のポイントを取り上げ、根系の形態や機能を測定・評価するための方法を整理してある。これは、理想型根系がどのようなものであるかを検討しながら、その目標に向かって根系を制御していくために必須のポイントである。第3部・第4部・第5部では、1.のポイントに関連した研究成果や応用事例を紹介した。すなわち、第3部では、根系の形態や機能を遺伝的に制御するための基礎研究や、実際の育種との係りについて整理した。また、第4部では、食糧生産の場面において根系の形態や機能を栽培的に制御する方法を、作物別に解説した。さらに、第5部においては食糧生産および人間生活の基盤となる、広い意味での環境形成のために根系を制御する技術が、生態系や目的別に紹介されている。
以上のように、「根のデザイン」の基盤となる3つのポイントについては多くの試みが行われているが、今後の研究や実践に待つところが少なくない。本書が提示する「根のデザイン」という視点が、今後の根の研究の発展とその利用に少しでも役立つことを願っている。
(序文抜粋)
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