農村の歴史と農民の生活を知る本

現代の日本では、昔の農民の生活と聞くと、「戦国大名や藩に対して武力闘争(一揆)を行った」とか「土地に縛られていて一生地元から出られなかった」と想像します。ところが、歴史家の本を読むと、意外にそうでもなかったことがわかります。ここでは、戦国時代から江戸時代にかけての、農村の歴史と農民の生活を解説する書籍を紹介します。

近世百姓の底力 : 村からみた江戸時代
渡辺,尚志,1957-
出版社:敬文舎
定価:2,400円+税
発売日:2024年4月20日
ISBN:978-4-906822-08-9

(1)一揆について

戦国時代の農民は武装しており、一揆は戦国大名に対する武力闘争でした。最初の天下人となった織田信長が一揆に苦しめられたことは有名です。また農村は、川の水利権や、肥料や家畜の飼料、燃料の供給源である山の利用権をめぐって、周辺の村とも紛争を起こしました。戦国時代の農村は常に戦っていました。その後、豊臣秀吉や徳川家康が天下を獲ったことで日本は平和になり、武力闘争の必要がなくなりました。

江戸時代の一揆は武力闘争ではありませんでした。我々は一揆と聞くと「竹槍や鍬、鎌で武装する」「蓑をまとう」「むしろを旗のように掲げる」と想像しがちです。しかし、実際には竹槍は用いられませんでした。

江戸時代の日本は封建社会であり、大名が「仁」を持って農民を支配すべきだという思想がありました。「仁義礼智」や「仁徳天皇」の「仁」ですね。これを「仁政イデオロギー」と呼ぶそうです。農民は大名に対して、「仁」のある政治をせよと要求していたのです。つまり一揆とは、「我々は農民として年貢を納めるという役割を果たすから、大名も農民を大事にするという役割を果たしてほしい」という請願でした。鍬や鎌を携えるのは、農民であることを明確に示すためでした。武器ではありませんでした。一揆が武力闘争だという誤ったイメージが成立したのは、明治時代の自由民権運動が契機だったようです。

歴史人口学で読む江戸日本
浜野,潔,1958-2013
出版社:吉川弘文館
定価:1,700円+税
発売日:2024年4月20日
ISBN:978-4-642-05724-0

(2)よく移動した農民

農民が生まれ育った村に定住して、あまり移住しなくなったのは江戸時代の中頃のようです。それ以前の戦国時代では、農民はよく移住していました。当時は災害や飢饉、戦争が多発していました。戦国大名による年貢や労役などの搾取も過酷でした。生活が成り立たなくなった農民は、豊かで安全な暮らしを求めて村を捨てました。そのため、どこの村でも常に人口不足、労働力不足に苦しんでいました。よそからの移住者は歓迎されたようです。

江戸時代に入ると日本は平和になりました。経済が発展し、地域野菜などの特産品も生まれ、農村は豊かになりました。そのため、農民は逃亡する必要がなくなって村に定住するようになりました。我々が今想像する農村は江戸時代に原型が成立しました。

もっとも、江戸や京都、大坂などの大都市が発展すると、大きな労働力の需要が生じました。さらに農村は人口が過剰だったため、親から農地を相続できない若者が多数いました。農村から多くの若者が職を求めて都市に移住しました。いわゆる丁稚奉公や日雇いの労働が多かったようです。農村が都市への人口の供給源となるのは、古今東西よくあることです。今も昔も都市は子供の出生率が低いので、自然増加が難しいからです。我々が想像する以上に、農民はよく移動していました。

かつてはテレビで時代劇がよく放映されていました。もちろん時代劇はフィクションであり、昔の生活が必ずしも写実的に描かれているわけではありません。しかし、昔の生活を想像する機会にはなったはずです。テレビで時代劇が放映されなくなって久しい時代ですが、昔の人々の生活を想像する機会を与えてくれる書籍を読んでみてはいかがでしょうか。

「図説」人口で見る日本史 : 縄文時代から近未来社会まで
鬼頭,宏,1947-
出版社:PHP研究所
定価:1,400円+税
発売日:2024年4月20日
ISBN:978-4-569-69204-3