農業経営の持続的成長と地域農業
 
 
 

八木 宏典 編著
執筆者: 八木宏典・斎藤 修・佐藤和憲・鈴村源太郎
・川手督也・盛田清秀・木南 章・柏 雅之・宮武恭一
・八木洋憲・竹本田持・能美 誠・斎藤 潔・内山智裕
・藤本保恵・山田祐彰・金 洪云・木下幸雄

 
 

■定価 5,250円 (本体価格 5,000円)
■A5判255頁
■送料340円
■発行年月  2006.06
■ISBN 4-8425-0386-6

 
 
■概略

我が国の農業の現状から、農業経営成長、地域農業振興、それらの国際比較という三つのジャンルに大きく分けて構成。必ずしも全ての分野を網羅した体系的なものではない。 しかし、第一線で活躍している執筆者たちの最新の研究の成果が収録されており、通読することによって、それぞれの分野における論点とオリジナルな知見を学ぶことができる。  本書は、東京大学大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻の農業経営学研究室に縁のある者たちが、最新の論文を持ち寄って刊行した論文集である。

 

 

   
■解説

食料・農業・農村基本法の第22条には、「国は、専ら農業を営む者その他経営意欲のある農業者が創意工夫を生かした農業経営を展開できるよう…、経営管理の合理化その他の経営の発展及びその円滑な継承に資する条件を整備」すると述べられている。「農業従事者が他の国民階層と均衡する…生活ができる(よう、)…農業の…不利を補正」するとして所得格差の是正を掲げてきた旧基本法に比べると、その政策スタンスが大きく転換している。その第一は、職業として選択し得る、魅力とやりがいのある農業にするために、「国は、効率的かつ安定的な農業経営を育成し、これらの農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立する」として、農業政策をより経営政策に軸足をおいたものとしている点である。第二は、従来の価格支持政策から市場原理を通じた価格形成へと価格政策の大きな転換が図られたという点である。その背景には、意欲と能力のある農業経営者の育成のためには、価格支持よりもむしろ市場原理を通じた競争条件の確保が重要であるという認識がある。
わが国のGDP総額は、依然としてアメリカに次いで世界第2位の位置にある。しかもその額はドイツの1.7倍、イギリスの2.1倍である。言うまでもなくわが国が築いてきた経済成長の成果であるが、これに伴って農業の産業としての地位は、コーリン・クラークの言う「ペティの法則」どおり、大幅に低下した。まだ、農業就業人口率が5〜7割を占め、国民一人当たりGDPが1,000ドル前後の水準にある途上国のグループに対して、先進国の農業活動人口率はいずれも1割を切り、国民一人当たりGDPも2万ドル前後の水準にある。注意すべき点は、日本もこのような産業構造的な視点でいえば、まぎれもなく先進国のグループの中にあるということである。
しかし、農業事業体数と、一事業体当たり農業産出額を算出して、主要先進国と比較してみると、日本だけ大きな違いがみられる。一事業体当たり農業産出額はアメリカの5分の1、フランスの3分の1というきわめて低い水準にある。先進国の農業は比較的規模の大きな農場によってその相当部分が担われる構造になっているのである。注意すべき点は、これらのいずれの国もが、現在でも自国の食料自給率を高めたり、高い水準を維持しているという事実である。
わが国農業の現状をみると、販売農家数は195万戸へ減少し、しかも販売金額規模別経営数の動きでは、中堅と見られる階層までもがその数を減らしている。米価の下落や輸入農産物の増加、花卉の需要低迷などによる国産農産物市場の縮小の影響であるとはいえ、全体的な農業後退の印象はぬぐいえない。しかし同時に、販売金額3,000万円以上の階層では、その数が増える傾向にあることも見落とされてはならない。厳しい農業経営を取り巻く環境の中で、一部ではあるとはいえ売上高を増加させている経営もあるということである。改めて、こうした前進的な農業経営や地域での先進的な取り組みの内実を明らかにして、その基本原理を他の多くの経営や地域に普及していく作業の重要性が問われている。
本書は、東京大学大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻の農業経営学研究室に縁のある者たちが、最新の論文を持ち寄って刊行した論文集である
本書では農業経営成長、地域農業振興、それらの国際比較という三つのジャンルに大きく分けて編集している。必ずしも全ての分野を網羅した体系的なものではない。しかし、第一線で活躍している執筆者たちの最新の研究の成果が収録されており、通読することによって、それぞれの分野における論点とオリジナルな知見を学ぶことができる。また、そのような性格から、ゼミなどのテキストとしても適した構成になっている。本書をさまざまな場でご活用いただければ幸いである。(序文より抜粋)


 
■要目

序章 農業経営研究の新しい地平(1. 農業経営研究の領域と農業経営学:2. 外部環境の変化と農業経営の新しい動き:3. わが国農業者の経営管理の実態とこれからの課題)

第1部 農業経営の成長と管理
第1章 農産物マーケティング論の新展開−主体間の関係性をめぐって−(1. 課題の設定―新たな視点の必要性:2. 関係性マーケティングとチャネル管理:3. 関係性マーケティングと製品政策)

第2章 野菜産地・経営における契約農業(1. 背景と課題:2. 契約の概念と類型:3. 野菜流通システムの変化と契約:4. 茨城県における系統農協による野菜の契約農業:5. 野菜農業・野菜作経営における契約の役割と限界)

第3章 認定農業者の経営者資質に関する一考察−農業経営者のモチベーションと経営成果−(1. はじめに:2. 課題と方法:3. 経営者意識と農業経営改善計画の達成状況:4. 農業経営者のモチベーション分析:5. おわりに)

第4章 家族経営協定と経営継承−「夫婦パートナーシップ」から「家族パートナーシップ」へ−(1. はじめに−背景と目的−:2. 宮城県における家族経営協定の位置づけ:3. 事例調査結果の概要:4. 考察−家族経営協定を活用した新しい経営継承の可能性−)

第5章 食料産業の農業参入と農地制度の課題(1. はじめに:2. 日本農業の現状と農業生産法人制度:3. 農地制度の変更と問題点:4. 食料産業の農業参入は成功するか:5. むすび)

第6章 農業経営の事業多角化とリスク・マネジメント(1. 序:2. リスク・マネジメント:3. 経営の持続的成長とリスク・マネジメント:4. 企業化と事業多角化:5. アグリビジネスにおけるリスク・マネジメント:6. 結語)

第2部 農業経営と地域農業
第7章 地域営農の担い手システム形成と投資問題−インキュベータの意義・限界とその組織構造を中心に―(1. はじめに:2. インキュベーションの意義:3. 農業公社をインキュベータとした地域営農の担い手創出:4. 地域農業と投資問題:5. おわりに)

第8章 後継者世代の新技術への挑戦と地域農業(1. はじめに:2. 無人ヘリ防除の特徴と導入の条件:3. 若手を中心とした活動の実際:4. むすび)

第9章 労働市場サービス提供による地域農業の支援(1. はじめに:2. 農業労働力の雇用現況:3. 多様な労働市場サービス:4. 農業における労働市場サービスの特徴と意義)

第10章 都市農地の保全と市民参加型経営(1. 市民参加型農業経営の概念整理:2. 市民参加型農業経営の事例:3. まとめ)

第11章 地域資源を活用した内発型アグリビジネスの課題(1. はじめに−課題−:2. 「事業」の理解と持続性:3. 民間業者との競合:4. リピーター確保と品揃え・メニューの充実の必要性:5. まとめにかえて−今後の展開方向−)

第12章 農業所得水準と所得形成要因の地域的特徴―中国地方を事例として―(1. はじめに:2. 重回帰分析とその結果:3. 農業所得形成要因の地域的特徴:4. 総括)

第3部 農業経営の国際的比較
第13章 古代メソポタミアの農耕と社会形成(1. 経営問題の時間軸:2. 文明が生み出した人間社会の基礎要素:3. 都市文明を支えた農耕:4. ハンムラピ法典にみる社会規範と家族:5. 文明の衰退)

第14章 英国における農業経営の継承とその持続的成長(1. はじめに:2. 課題の設定:3. 分析視角と対象事例の概要:4. 権限移譲の状況と認識差異:5. 後継者によるスキル修得方法:6. まとめ)

第15章 フランスにおける女性農業者の地位と経営参画―出産・育児期の働き方から―(1. はじめに:2. フランスにおける農業経営と女性農業者:3. 女性農業者の経営参画の実際:4. おわりに)

第16章 ブラジルアマゾンの日系農業と森林保全(1. はじめに:2. 第二次世界大戦前の移住開拓:3. コショウの普及と遷移型栽培の展開:4. アグロフォレストリーと森林保全:5. おわりに)

第17章 中国産大豆の競争力分析−黒龍江省の生産と流通を中心として−
第18章 現代農業水利の国際比較(1. はじめに:2. アメリカ(カリフォルニア州)の農業水利:3. オーストラリアの農業水利:4. おわりに)